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もういちど建築入門 Q&A

 江口正利

建築ジャーナル2001年5月号から


市民・ユーザー編

施工会社と設計事務所の違い
それぞれのメリットデメリット
設計事務所って何をどこまでやってくれるの?
インテリアコーディネーター
設計をしてもらうのに契約書がいるの?
設計者のみつけ方
構造設計の必要性
敷地と地盤
設計料はいくら必要ですか
工務店選び
設計料の発生
坪単価いくらから
工事中の設計変更
見積もりのチェック
2×4住宅は強い
高気密・高断熱
建築条件付きと設計者
オープンシステム
シックハウス
「変」な家?
何を準備したら?
困った人

Q12 <設計と施工の違い>

施工会社と設計事務所の違いはどこにあるんですか?




ここでは住宅に限って話をします。
施工会社は工事屋さんです。○○工務店・××建設(△△住宅とか□□ホームという名称もあります)、そして大工さんや電気屋さん・設備屋さんをまとめ、工程や工事原価を管理しながら建物をつくっていきます。

施工会社でも設計をしますが、基本は工事を請け負うことで、営業の一環として扱いますので、設計費用もあまりかけず、さまざまな提案は期待できません。設計費用は見積もりの中に明示するところと経費の中に隠れているところがあります。決してサービスではないことに注意してください。

 設計事務所は建築主の希望・暮らし方を一緒に形にし図形化します。図面化したあと、施工会社から出てきた見積もりをチェックして(これが千差万別なのです)、施工会社を決める際のアドバイスをしたり、建築主に代わって工事が図面どおりに行なわれているか監理をします。

 このように施工会社と設計事務所は建築主に対し、それぞれの立場を異にして建物をつくっていきます。最近は、施工会社も設計に力を入れ、できるだけ川上で仕事につなげようとしているところもあるようです。

また設計事務所も工事マネージメントに進出してきました。お互いの強いところを前面に出し、競っていくことで曖昧な部分もなくなり、良い住宅が安くできるようになればよいと思います。


Q13<メリットとデメリット>

大工さん、工務店、住宅メーカー、設計事務所に住宅を頼んだときのそれぞれのメリットとデメリットは?



大工さん、工務店、住宅メーカーはQ12で言う施工会社です。大工さんは腕と勘による技能者です。工務店は技術者を基に技能者をまとめる集団です。

住宅メーカーは工業製品に近い建物を商品としてオーダーメイド化し供給します。設計事務所はQ12で書いたようにまったく違う存在です。それぞれに良いところ、悪いところがあります。また仕事の流れも違います。


Q14<何をどこまで?>

設計事務所って何をどこまでやってくれるの?




住宅を設計する設計事務所もいろいろあります。大工さんや工務店の下請け的なところは図面1、2枚で確認申請の提出や役所の検査の立会いをします。おおよそのプランは大工さんや工務店が建築主と話し合い、それを図面化し、提出する代願屋さんと呼ばれる人たちです。

この人たちの仕事が、何をどこまでやるかという質問に対する最小限の仕事量です。これを最小限として次のQ15の仕事量までさまざまです。

 設計者の能力もデザインに強い、技術に強い、コスト面に強いなどいろいろあります。この強いというのも他の設計者との比較で言う場合もありますが、その人個人の中で他の能力より優れているという場合もあるのです。

自称「建築デザイナー」という人が他の能力にくらべてデザインがまだましなだけだったり、自分のことを技術屋・職人と呼ぶ人がどんなデザインでも実現したいがために裏付け的な技術を持っていたりとさまざまです。

 どこまで設計者がやってくれるかはその人の能力次第です。よく見極めてください。


Q15<インテリアコーディネーター>

住宅展示場に行ったら、インテリアコーディネーターという人が出てきました。設計事務所は家具やカーテンまで選んでくれるの?




もちろんそこまですべきです。

空間をつくっていく上では当然必要なことでしょう。照明器具・造作家具・扉の取っ手や金具などはどのような空間を演出したいのかということにつながっているので当たり前に計画します。

選ぶだけでなく、限られた費用の中で十分な効果を得られるよう、オリジナルでつくることもします。そのあたりが、カタログデザイナー、カタログコーディネーターとの違いです(ちなみにカタログで選ぶことしかしない設計者をカタログエンジニアと言います)。

建築本体を大道具とするなら、小道具までデザインしないと舞台は成り立ちません。家具・いす・カーテンレール・カーテン・タオルかけ・ピクチャーレールなど、まかせてもらえばどこまでもOKです。

できればえんぴつから灰皿、箸からスプーン、カレンダーまでも選択したいと思っています。また、建物の規模やグレード、設計費用によってはこのような能力に優れた人や家具デザイナーを登用することもあります。

ただ、住み手が納得し、使いこなせなければ生活感のない、人の存在を拒否する空間ができることになるのでご注意。


Q16<設計と契約書>

設計をしてもらうのに契約書がいるの?




契約書は必要です。

 団体や協会のつくっている市販の契約書がありますが、最低限の内容になっています。私の事務所のオリジナルの契約書は、建築主が「どこまでやってくれるのだろうか?」「ここまで要求していいのだろうか?」「ここまで頼んだら設計料が追加になるんじゃないだろうか?」「打ち合わせに来ないけれど、うちの設計はやってくれているのだろうか?」などの心配を考慮し、作業量、作業工程と日時、金額など数字はきちんと決定しておくことにしています。

作業量は設計フローとインテリアフローを日付入りで契約書に添付するようにしています。設計途中で中止になった場合の各段階の区切りと金額や建築主の希望による出張費用も明確にしています。

設計業務以外の相談程度の事項についてはのちのち誤解を招かないよう、事務所は責任を持たないという一筆を契約書に入れるか専門家を紹介します。たとえば税金関係や土地・建物の複雑な権利関係など、仕事に関連することはいくらかの知識はありますが、専門ではありません。

契約書の基本はお互いの『…だろうか?』をできるだけなくしておくことではないかと考えています。


Q17<設計者のみつけ方>

間違いのない住宅設計者の選び方は?



だまされてもいいと思うほど気が合う人をみつけることです。

設計者にもいろいろな人がいますので、とにかく数をまわっていろいろ話をして決めることをすすめます。まちを歩いて、こんな家に住みたいと思ってたら、迷わずその設計者を聞いて、訪ねるべきです。

そのとき大事なのはさまざまな住まい方、暮らし方を柔軟な頭で提案してくれそうな人、「だまされてもいいと思うほど気の合う人」を選んだらどうでしょう。

また、お金をかけてもよいのであれば、数社を選んでコンペで決めたらと思います。むろん選ぶのはあなたです。提案内容やプレゼンテーションボードのセンスやその中での会話の誠実さはそのまま住宅にも出てきます。

自分たちの家だから手間ひまかけて選んで、一緒に暮らしについて語りながらつくっていけば、愛着の湧く物語のある家ができると思います。

デザイン能力、技術的な能力、現場をまとめる能力、コストを調整する能力、それらを建築主へ説明する能力、それぞれの能力の中にある品と格。これらが建築主の性格に合うかどうかがポイントです。設計者の選択が毎日暮らす家を楽しめるのか、苦痛なのか、帰りたい家になるのかの大半を決めると思ってください。


Q18<構造設計の必要性>

住宅にも構造設計者は必要ですか?



必要です。

木造住宅の場合、簡単に考えがちなのが構造です。住宅のプランも複雑になり、大きな空間をつくることも多くなってきました。また敷地も狭く、木造3階建ても見かけます。

このような場合、建物の重量も複雑で、地震・風に対し合理的に力を流してあげることが大切になってきます。ここで構造設計者が登場します。

彼らは構造を専門とした事務所を持ち、私たち意匠の事務所とチームを組みながら活躍する専門家集団です。彼らの仕事は無駄のない、バランスのよい合理的な構造に対する考え方を設計者に提案し、構造計算をし、木造だと仕口(つなぎの部分)をどのようにするかなどの図面を描き、さまざまなアドバイスもしてくれます。

少しの費用で建物も合理的な構造体になるので、材料の無駄もなくなって建設費も安くなり、なによりも安心を買えるのが良いところです。

 意匠の設計事務所がその建物で構造が必要か判断し、依頼することになりますが、費用は設計料の中に含まれている場合とそうでないときもあります。設計の契約の時に確認しておくと、のちのちトラブルがないでしょう。

私の事務所では建築主の要望も多様化しているなか、さまざまな場面で相談を持ちかけ、役所に提出する書類に関係ないときも構造設計者は必要な存在となっています。構造設計の費用は設計の状況にもよりますが、通常の住宅で20万円から30万円かかります。


Q19<敷地と地盤>

今住んでいる家は地盤調査をしなかったけれど大丈夫?



設計者はまず敷地を見に行くことからはじめます。整地されたきれいな敷地、傾斜のあるおもしろい敷地などさまざまです。しかし、私たちが建物を設計する際に地盤との関係で重要なことは、建物の重量を気持ちよく地盤に伝えることです。

そこでは整地された敷地ではなく、見えないその下の地盤がどうなっているのかに興味がいきます。昔水田だったのか、沼地だったのか、傾斜地を造成し盛った土地なのか、切った土地なのか、という整地される前の敷地の状態やどの程度の固さの土か、粘土質か、砂質かなど土の性質を問題にします。


 そのまま建ててしまうと、欠陥住宅の主要な原因のひとつである不等沈下といって、建物の基礎の一部が沈み、建物にも亀裂が入り、あとあといつまでも悔やむことになります。

 そのようなことがないよう地盤を調査し、できるだけ弱い地盤の上に建物が載らないように配置するのがいいのでしょうが、都市周辺の狭い敷地の場合はどうしようもありません。

そのときはさきほどの構造設計者と相談しながら地盤改良や基礎の設計をしたり、強い地盤のほうに力が流れるよう建物全体の構造計画をしながらデザインします。

 地盤調査費用は地盤によりますが15〜30万円かかります。設計費用には入っていません。

 調査の程度は敷地の状況、建物の形状にもよりますので、設計者に相談して行なってください。住宅の場合、方法は簡単で、構造設計者と先のとがった鉄筋を土に刺してたたき、土の固さを確認する程度から、調査用の簡易機械で調査をし、基礎についてのアドバイス入りの報告書が付くものまであります。

調査個所は2カ所程度は必要です。 建て替えの場合は、通常必要ありませんが、設計事務所に確認してください。


Q20<設計料の本音>

設計料はいくら必要ですか? 本音が聞きたい。



本音を言います。住宅の場合、最終的には相性と建築主が筋の通る人か、通らない人かで設計料も決まると考えてください。

 設計中の希望、要望はどんなに多くてもかまいませんが、普通に筋の通る人が建築主の場合、2,500万円前後の建設費用に対し設計料は10%程度です。ただし、設計料は大都市と地方都市では高低差があります。

 建設費用2,000万円以内で坪単価30万円から40万円前後のローコスト住宅だと、手間暇かかりますので200万円以下の費用では設計を辞退する事務所もあります。

ときどき、わがままで、自我の強そうな建築主がいます。このような人は変更も多く、相当な神経と手間がかかります。そのぶん、設計料は高く必要になります。私の事務所の場合、15%から20%を要求します。

 逆に建築主の要求がそれほどでもなく、設計に対するアイデアやデザイン、技術、また職人たちの監理もそう必要のない場合は2,000万円から3,000万円の建設費用に対し安い報酬で受ける設計事務所もあります。

 そもそも建設費用は、建築主と打ち合わせをして、どんな生活、暮らしをしたいかを考えたり、図面化したり、役所へ確認申請を出したり、工事が始まったら設計通りにやっているかを監理したり、変更があった場合の検討をしたりなど、さまざまな作業に対する報酬です。

報酬は基本的に設計者がかかった日数と事務所を維持するための費用で構成され、そのほかに、デザイン性・技術力など目に見えないものに対する費用が加わります。この目に見えない能力が高いほど、デザイン性、機能性、実用性もよく、建設費用も安くなり、技術的にもしっかりとした無駄のない設計となります。

設計事務所の設計料の差はこの部分にあります。これを加味した設計料を建築主に理解してもらうのが大変です。


Q21<工務店選び>

設計事務所は工務店を連れてくるの?また工務店をどうやって選ぶの?



連れてきません。

 建築主は図面ができた時点で工務店に見積もりを依頼します。見積もりは数社にお願いし、施工する工務店を選択します。最終的に工務店を選択するのは建築主です。このとき、設計事務所はいろいろなアドバイスや手助けをします。

 建築主の知っている工務店が何社かあれば、そこに見積もりを依頼します。もし、どこも知らないということで建築主から頼まれれば、設計事務所が数社の工務店を紹介します。

 設計者は建築主の代理人として工事の監理をしていかなければなりませんので、工務店と癒着するような状況をつくらないようにしています。しかし、問題は建築主が特命で親しい大工さんを連れてきたときに、よく起こります。

私の事務所でも一度だけ経験があります。彼らは図面を無視し、やりづらい仕事や失敗した時は直接建築主に相談します。設計者が知らない間に違った建物になったり、追加料金も発生して建築主に請求がきます。

しかしこのような場合、設計者が知らないところでの出来事ですので、本来建築主は払う必要のない費用ということになります。しかし、大工さんの話だと建築主からの直接の変更・追加も相当あったようです。通常は、作業所で建築主から直接話があっても職人さんは設計者に連絡します。

 どんなに親しくてもドライに割り切って工務店を選びましょう。その手助けは設計事務所の仕事です。


Q22<設計料の発生>

どのあたりから設計料が発生するの?聞いておかないと心配です。



設計事務所が本格的な設計作業に入ったときからと考えてください。

 私の事務所では、設計の相談があった場合、まず作業内容、スケッチ程度のイメージ、チーム体制、設計料を提示します。その間、敷地が決まっていれば見にいきます。そして建築主にその内容を検討してもらい、OKであれば契約をするようにしています。

それからデザインや本格的な作業に入ります。ですから契約した日をもって設計料が発生するということになります。

 設計者によってはぐずぐずと先延ばしにしているところもあるようですが、契約をすると建築主の覚悟もでき、設計者もやる気がおこります。またあとあとのトラブルも少なくなると思います。

 法律的には設計契約は当事者間の意思の合致ですから、口頭でも、申し込みと承諾が成立することになります。ご注意を。

 住宅メーカーや工務店にいくと、建築主をつなぎとめるために簡単なプランをすぐに持ってきます。これは工事を請け負うための営業の一環ですので無報酬のサービスでしょうが、設計事務所は設計を業務としていますので無報酬というわけにはいきません。


Q23<坪単価いくらから?>

設計事務所は高級住宅しかやらないのですか?ちなみに建設単価はいくらぐらいから頼めますか?



坪単価のマジックに注意してください。

 建設費用についてはよく坪単価で表現しますが、どこまで含んでの費用なのかはまちまちです。一般的に、大工さんや工務店などの施工会社の人が坪45万円などと言う場合、建物だけの費用で、つくりつけの家具・本棚などは入っていません。

なぜなら彼らにとっての家具は既存のものを持ってくるか、新たに買うだろうとの認識ですし、施工会社ですからそこまでタッチしていないことによります。

設計者の場合、設計意図には必要な造作家具なども入ってきますので、坪単価にそこまで含めて説明をする人が多いと思います。また、門扉や塀の外構工事まで、その設計者が考えるすべてを含んだ場合もあります。
 坪単価の話のときは建物本体のみか、造作家具まで含むのか、キッチンや浴槽のグレード、外構工事まで含むのかを確認しておく必要があります。

 設計事務所は高級住宅しかやらないというのは大きな誤解で、ローコストから高級住宅までさまざまな建物の設計をします。工務店や住宅メーカーは通常の価格帯を得意としていますので、ローコストや高級住宅は設計事務所に任せたほうがいいと思います。

私の事務所では2,000万円台の住宅を設計することもあれば、3,000万円台もあります。ローコストでは、2,000万円以下で坪単価30万円台というのもあります。高級なものは建物の形状、材料や設備によりますので費用の上限はありません。

 私の経験では、材料や詳細まで図面ができあがって見積もりをするとほとんどの施工会社が同じで、経費の取り方で違いが出るくらいです。

建設費用に大きな差が出るのは、大工さんや工務店が設計者の書いた図面の建て方に経験がない場合か、その設計者と仕事をしたことのない場合に、失敗を恐れてその費用を上乗せしたときが多いようです。また、設計が不備なときも、どんな要求が出るのかわからないため、費用を上乗せする場合があります。


Q24<工事中の設計変更>

工事中の設計変更って高くなるって聞いたけど、そうして?



「ちょっと変えてほしい」のひとことで10万円の世界だと思ってください。

 工事中に一番トラブルの多いのが設計変更の費用についてです。工事にとりかかって早い時期での変更はあまり手間もかかりませんので、費用はそうでもありません。しかし、建築主はある程度できてみないとわかりませんので、できてからの変更のほうが多いようです。

 変更によっては一度つくった個所を壊したり、補強したりします。、また、取り付けているものを動かしますから、釘穴や掘り込みが残っています。そこの補修もしなければなりません。これも簡単な補修で済む場合と壁の一面すべてを補修する場合もあります。

 簡単だと思っている変更でも手間のかかり具合で費用が決まるので要注意です。

 変更に対する費用は手間賃と材料の費用ですが、定価ベースだと思っていたほうがいいでしょう。万一変更したい場合は、とにかく早い時期に見積もりをしてもらい、検討してOKを出すことですが、工事の進行上なかなかそういう時間もないのが現状です。

 工事を請け負うときは工務店も大工さんもほかとの競争があり、費用をできるだけ安く出します。材料も事前に建材店と打ち合わせをし、値段交渉をしていますが、あとでの追加は交渉外の品物ですから安いとは限りません。

また、工事中は工程が次から次に進んでいきますので早い納品が必要になり、取り引きのない建材店から仕入れることもあります。高くつくのは、このような原因によります。なかには、大工さんが赤字を出しそうなとき、これ幸いと変更の費用を高く言ってくる場合があります。


Q25<見積もりのチェック>

「見積もりがすぐわかる」なんて本が出ていますが、設計事務所って工務店から出た見積もりのチェックもしてくれるの?



チェックします。設計者は施工者が請負うときの見積書をチェックし、建築主が施工者を選定する相談にのります。また、変更時の見積もりもチェックして、建築主に代わり交渉もします。

 見積書は工務店や大工さんの質を表わします。工程管理や原価管理がきちんとしているか、材料を把握しているか、きちんと図面を見て施工するのか、見積書を見て判断します。営業的な言葉より見積書のなかに工務店や大工さんの姿勢が表現されています。

一式見積もりと言って図面から数量を拾わないで「これくらいの金額だろう」という、勘での見積もりが出てくることがあります。このような見積もりはチェックしようがありませんし、仕事も勘頼りで進みます。

のちのちのトラブルを避けるため、どんなに安くても私の事務所ではこのようなところは見積もりの段階で断ることを建築主に伝えます。

 茶室や数寄屋などの高度な技術を持った職人が必要な場合は別ですが。


Q26<2×4住宅は強い?>

ツーバイフォー(2×4)住宅は地震に強いって本当?



これは某ハウスメーカーの営業トークです。

 ツーバイフォー工法は設計基準・性能・費用・品質が画一化されているので高技能の職人を要しないで扱うことができるという利点と、枠組壁構造という壁を主体とした構造体ですので、壁の量も多く、地震に強いという利点があります。

 兵庫県南部地震の木造住宅の被害での最大の原因は耐力壁の不足と壁の配置が悪く、偏心した(重心が偏っている)建物です。また、被害がひどかったのは、古い構法の基礎も粗末で、貫が粗くて細く、土壁の壁自体にも耐力のない建物や、ミニ開発による壁量の少ない建物です。

耐力壁がきちんとしているものは問題ありません。ですから今の柱・梁構造の建物が地震に弱いということではありません。また、最近では柱・梁構造もさまざまな金物が研究されています。

 ツーバイフォー工法は営業を優先し、担当者も素人で、安易につくるケースも多いようです。私のところにも、弁護士から「2階にウォーターベッドを置いたら床が傾いたとの相談があったので見てくれ」との依頼があったので行ってみると、新築なのに最大6cmも下がっていたということがありました。

 問題は工法ではなく、壁量と偏心、職人の技量です。在来工法・ツーバイフォー工法とも、長所も短所もあります。

 設計者はハウスメーカーのようにどれか一つの工法で設計するということはありません。構造設計者との共同作業により建築主の多様化した希望や要望に合わせ、それにふさわしい架構方法で設計をします。

それは在来工法やツーバイフォー工法などの一つの工法を使って建物をつくるということとは違う、それぞれが工法ともいえる、まったく別の発想です。

 在来の柱・梁構造の伝統的な職人の枝も、心に訴えるすばらしいものがあります。いい職人にめぐり合えたら伝統的な工法もいいものです。


Q27<高気密・高断熱>

高気密・高断熱・外断熱がはやりだけれどいいものなの?



建築主がどんな家を希望するかで決まります。

 高気密・高断熱についていえば、低より高、放熱より断熱が、言葉のイメージとして心地よく聞こえます。そういうとき、はやりの言葉は、「はたしてそうなのかな」と疑ってみたほうがよいのです。

 低気密の風通しのいい木製サッシュの昔の家はよくなかったのでしょうか?低断熱の昔の家はよくなかったのでしょうか?それはそれなりにいいところもありました。

 いま、住宅づくりで大事なことは、どのような生活をするのかをはっきりさせ、その生活を成り立たせるための最低の性能はどの程度なのかを検討することではないでしょうか。

 結露の問題、息苦しさの問題、シックハウスの問題、夏期蒸暑の問題などを地域性や建物の向きとの関連性で検討する必要があります。気密性・断熱性も過剰設計にならない程度に、必要なだけでいいと思います。

最近ではエネルギー消費によって発生するCO2の問題があります。これは地球規模の温暖化とからみ、冷暖房の負荷を小さくするために高断熱・高気密へと、あまりにも短絡的な発想でことが運んでいるように思います。

 外断熱は構造体の外側をすっぽりと覆いますので断熱材が切れて不連続な内断熱より性能は良くなります。しかし、外壁材との取り合い・工法・費用の検討や、高気密・高断熱がもたらす問題点の検討もしなくてはなりません。断熱材の種類や厚さの厳選や技術的な裏付けをした上で、慎重な採用をしたいものです。


Q28<建築条件付きと設計者>

建築条件付きの土地を買おうと思うけど、工務店やハウスメーカーにも設計者はいるの?



いません。

 工務店やハウスメーカーは施工の請負を目的としていますから、営業的に設計者がいる場合と外注設計の場合の両方があります。いずれにしても、設計は営業の一環となりますので、希望・要望に対する設計の幅はありません。

建築主のたっての希望があれば、いい設計者を紹介することもありますが、この場合もあくまで工事の受注と利益が目的ですから、この目的に沿った選定になります。設計者の監理も甘くなると思っていたほうがいいでしょう。

何度か話していますように、設計費用は工事費のなかに入っていますのでご注意を。最近は見積もりのなかに設計費用の項目もあり、わかりやすくしているところもあります。

 建築条件付きの土地の場合、売る側も売りたいのですから、買う条件として建築主が設計者を連れていくことは可能だと思います。私の事務所でも建築条件付きの土地でしたが、設計したことがあります。

その際、売り手の施工会社で施工する、利益は確保するという条件でスタートしました。問題は相手の思惑を理解し、簡単にして条件を話し合えばすぐ解決すると思います。


Q29<オープンシステム>

今、はやりのオープンシステムってどんなものなの?



建築主にわかりづらい建築費をオープンにしたやり方です。

 住宅の建設は工務店や住宅メーカーが総合的に請け負い、その会社が20数社の専門工事業者を管理するというシステムで行なわれています。工務店や住宅メーカーを省いて、もっと直接、オープンに工事をしたいというニーズに応えた工事の方法です。

 具体的には、工務店や住宅メーカーが行なっている、安全管理・工程管理・原価管理や仮設計画を建築主と設計事務所でやりましょうということです。

 建設費用については、建築主が直接専門工事業者と契約するので、費用はわかりやすくなります。問題点は、工事中の職人の安全管理、専門工事業者間の工程の管理と調整、仮設計画、工事契約した業者の倒産や火事などのトラブルがあげられます。

この問題点をどのように解決するかがオープンシステムのポイントになりますので、採用するときは十分な打ち合わせが必要です。

 具体的には設計者の作業所管理の経験と損保会社の建築補償制度と建築主の作業量などを聞いておくことです。今後は、安易にオープンシステムでやろうとする設計者も出てくると思いますので、注意してください。

 実際、工務店や住宅メーカーの安全管理や工程管理はずさんで、私の事務所でも苦労しています。また、住宅メーカーの管理は利益20数%確保の原価管理が中心のようで、しわ寄せがほかの管理のずさんさを呼んでいるのではないでしょうか。

サービス設計費用・営業マンの費用・住宅展示場の費用と人件費・豪華なパンフレットなどを見ると仕方ない気もしますが。


Q30<シックハウス>

シックハウスで病気になりたくありません。どうしたらいいですか?



暑いときは暑いなりに、寒いときは寒いなりに暮らしたらいかがでしょうか。

 詳しくは、建築ジャーナルで毎号連載しています。またほかの雑誌(たとえば『建築知識』2001年3月号)でも特集していますので、ここでは基本的な考え方について書きたいと思います。

 子どもがぜんそくなので東京暮らしをやめ、民家を移築して、寒い信州の田舎に移り住んでいる友人がいます。建築費を抑え、その時考えられる最小限の住宅からスタートしました。冬を経験しながら、不便だったところに毎年少しずつ自分たちで手を加え、いまでは快適に暮らしています。

私の事務所で設計したものも、7年目、10年目で、まだつくり続けている住宅があります。10年目の家もあります。最初から便利なようにつくることもいいでしょうが、費用にも限度があります。また、子どもも大きくなり生活も変わります。必要なところに必要なだけ、少しずつつくっていくのも楽しいものです。

 シックハウスのアレルギー症状は結露とカビ、温湿条件と建材や防カビ剤などに含まれる化学物質との関連も指摘されています。建築的には気密性・断熱性や換気性能の問題として複雑に絡み合っているようです。

 シックハウスの問題は暮らしに合わせてつくっていくという知恵を逆に教えているのではないでしょうか。このようないろいろなものが重なり合った複合汚染がもたらす病気は原因が特定しにくく、対処が難しいようです。
 あえて原因を探すなら、便利さを追求する私たちの心ではないでしょうか。


Q31<「変」な家?>

設計事務所を頼むと「変」な家を建てられるって本当?私は普通の家がいいのですが。



「変」な家を建築主が望まない限り、設計者はつくりません。

 住宅メーカーや工務店がつくる家を「普通」の家というのでしょうか。建築主の多様な要望は、さまざまな家を生みだすのではないでしょうか?

設計者は建築主の暮らし方や機能性、敷地の状況、家に対する漠然とした希望、その家族の社会に対するメッセージを読み取り、形にしていきます。住宅メーカーや工務店がつくる家は先に家があります。

ですから、その中での暮らし方は建築主が家に合わせて考えなければなりません。設計者にとってこのような家は、住宅のひとつのバリエーションにすぎません。

 暮らしに合わせて家をつくるか?家に暮らしを合わせるか?あなたにとって普通の家はどちらでしょうか?


Q32<何を準備したら?>

設計事務所に行くとき建築主は何を準備したらいい?



難しく考えないでください。プランや条件を書いてきてもいいですし、なくてもOKです。ほかに準備するものは、建設予定地が決まっていれば、その住所です。住居表示と地番があれば助かります。

 笑顔があれば、初対面のぎこちない雰囲気も和やかになります。住所がわかれば敷地を見に行けます。欲を言えば、敷地の図面、謄本でしょうか。

 住宅を設計するとき、プランや模型で家族の動きなどを想定します。その時の建築主の顔は怒った顔よりも笑顔のほうがいい。きっと完成したときも笑顔の似合う楽しい家になります。


Q33<困った人>

最後に、こんな人は困る、こういう建築主は設計事務所向きではないという本音を聞かせて。



なぜか、また変更の話になりますが、どうしてか、やたらと変更する人がいます。悩むのはよいのですが、一度決めたことを変えてはいけません。たくさんの人がかかわってすでに準備しているので、変えられるものと、変えられないものがあります。

 性格的に言うと、自我が強くて、あるいは自主性がなくて、社会性のない人に多いようです。社会性があれば相手の大変さもわかってよく考えて変更します。そういう気持ちは職人にまで通じます。

 あえて言えば、中途半端な耳年増の人。聞きかじりで思いこみの激しい人。その人自身が建築家やデザイナーに変身している人にも困ります。

 それから、車を買う感覚で来る、気が短い人。設計事務所と施工会社の区別がいくら説明してもわからない人。

 しかし、わがままであろうが、けちであろうが、理解力がなかろうが、少々難ありの人でも、素直に人の話を聞いて前向きに進む人であれば設計は楽しいものです。

 一つの家をつくることはドラマをつくることです。設計から工事完成までは長い時間を費やします。そこでは建築主との小さな困ったことはしょっちゅうです。

 本当に困った建築主というのは、この20数年間で3人です。


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