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国産材はなぜ使われないか

国産材が使われないのは外材のせいではない

 荻大陸氏(京都創成大学教授)に聞く



設計者や施工者にとって、木材は外材であれ国産材であれ、より品質の高いものを、より安く使いたいというのが本音だろう。循環型社会、サスティナブル・デザインの必要性というお題目はあっても、現実にコストが高くついてしまえばお客さんは使ってくれないのが現実だからだ。  

たしかに国産材は高いイメージがある。木曽桧や秋田杉、北山杉などのブランド銘柄ではなおさらだ。実際のところ、外材に比べ国産材はどのくらい高いのだろうか。そして、本当に「高いから」使えないのだろうか。  

もう一つは、「品質」である。荻氏は戦後、その良質性から新たな全国銘柄となった「東濃桧」を例に、@歩切れのない正量品、A良心的仕分け、B乾燥、Cきれいな仕上げ、を挙げている。  

結論から言えば、国産材はすでに、外材と比べ高い商品ではなくなっている。残る一方の品質が問題となるが、それについては「(国産材が外材に負けたのは)要するに国産材の品質があまりにも劣悪だからなんです。」と荻氏は断言する。これについて、荻氏へのインタビューから、その理由を明らかにしていきたい。

また、今後どうすれば国産材はよくなっていくのかについても聞いた。




「歩切れ」「空気売り」が蔓延

なぜ国産材が使われなくなったのか。「これは、外材が安いから高い国産材が売れなくなってきたと、業界も学会もそういう説明をずっとしている。ところが外材が入ってきたときには国産材との価格差が非常に大きかったんですが、だんだん価格差を縮めながら外材はシェアを広げてきている。こんな馬鹿な話はないですよね。

安くなりながら広げていくなら理屈に合いますが、高くなりながらシェアを拡大していくのは変です。  外材が本格的に入ってくるのはだいたい1961年(昭和36年)からです。1970年(昭和45)に外材のシェアが50%を上回った。その時代から、東濃桧が銘柄化されるプロセスを調べていく過程で、国産材が売れるようがおかしいとわかってきました。要するに国産材の品質があまりにも劣悪だからなんです。

その劣悪さを表わすいい例が『歩切れ』です。  たとえば3寸5分(10.5cm)角と表示してある材が、実際には10.5ない。10.0とか10.2しかない。実際に10.5ないものを10.5という表示をして売る。そういう品物を『歩切れ』と言います。僕が研究しだした頃は木材は歩切れがあるのが通常だと、そういう話は聞いていたんです。ところが実際は調べてみると、もっとすさまじい歩切れがある。  

普通、100m3の丸太を製材工場が仕入れて、挽いて製品にすると60〜70m3の製材になりますね。ところが100m3の丸太を仕入れてきて150m3の製品がでてくる。仕入れて丸太の材積よりも販売する製材品の材積が大きくなる。常識ではありえない。

そういう製材がずっと当たり前だったんです。私はこれに『空気売り』と名前を付けた。歩切れなどというなまやさしいものじゃない。要するに空気を売っているわけです。これが全国で蔓延していた。」


「空気売り」の仕組み

「『空気売り』が蔓延していた当時、丸太の市場は小丸太価格優位という特異な構造になっていました。つまり3cmから9cmぐらいの非常に細い小丸太の値段が、20cmから30cmくらいの中目丸太や、14cmから18cmくらいまでの柱用丸太よりも高かった。

つまり6cmとか7cmの丸太から9cm角とか10cm角ものの製品をつくる。丸太の面をほんの少し削ってあるだけだから、丸みだらけです。製材工場は空気を売ったほうが儲かるから、小丸太ばかりみんな買いにいく。だからその値段が、柱用丸太や、中目丸太よりもよっぽど値段が高くなった。まさに空気売りのせいですが、誰もが小丸太の需要が非常に強いから、小丸太の値段が高くなると納得していた。そういう小丸太価格優位の構造は、昭和40年代のはじめごろまで続きました。」

 こうした、今から見れば「異常な」取引が成立していた背景には、需給ギャップが非常に激しかったという当時の時代状況がある。敗戦直後、焼け野原になった日本の住宅不足は、420万戸にのぼり、なんとか住宅の総戸数が総世帯数を上回るのは東京オリンピックの後4年も経ってからである。それぐらい住宅不足は深刻だった。資材の不足は木材の高騰化を招き、安定していた日本の一般物価のなかで、木材は例外的に「独歩高」となっていた。

 「結局、劣悪なものを排除し、適正価格に持っていこうという正常な市場機能が働くような状態ではなかった。」  「空気売り」、すなわち製材品の歩留まりが150%、200%というすさまじい状況に歯止めをかけるため、製材品の日本農林規格(JAS)が、1967年(昭和42)に誕生する。しかし実際にはJASの効果は薄く、「空気売り」が改善されたのは外材の流通によってだった。ちょうどJAS制定と同時期、大径級の外材が丸太で入ってくるようになったことによって、「空気売り」は通用しなくなったのである。

 「当時の二大外材のひとつ、北米材(ツガ)の場合、多くは30cm以上、40、50cmという丸太が当たり前です。ソ連(ロシア)材も中目丸太に相当する材が主体でした。そこから9,10cm角などの小角類ものを挽くので、日本の7cmとか6cmの丸太から挽くのと違って、空気がでるような取り方ができない。外材でとった9cm角はちょんと9cm角になっていて丸みがない。しかも値段の安いものが市場に入ってきたから、どんどんこっちのほうが使われるのは当たり前です。

 価格だけに注目すると、いかにも価格競争力でやられたみたいに見える。ところが、これは価格競争力の問題じゃない。実際、外材は非常に安かったわけですが、たとえ同じ値段だったとしても確実に外材は侵入して、国産材は後退したでしょう。

 いろいろなところに問題はあるんですが、僕は外材を入れた商社に非常に大きな問題があったと思います。商社が価格設定を誤ってしまった。何百年も経つオールドグロスといわれるアメリカ材を、なぜ国産の40年や50年に満たない杉や桧よりも安くして販売する必要があったのか。

それを考えただけでも非常に不合理な価格設定の仕方だった。少なくとも外材は国産材と同じ値段で十分売れたと思うんです。その方が商社も儲かっただろうし、海外産地の森林のためにも、日本の市場のためにもよかったと思いますよ。」


「空気売り体質」は残った

国産材と外材には、当初は大きな価格差があったが、徐々に外材価格は上がり、同時にシェアも伸びた。逆にいうと外材の方はむしろ適正価格に近づいてきた。国産材の方は、外材が市民権を得るようになって「空気売り」はなくなっていく。

だが「品質の問題は結局、今に至るまですっと続いているんですよ」。  「空気で飯が食えるような構造が壊れただけで、量目をごまかして儲ける歩切れそのものは全然なくなっていないんです。それから今、盛んに言われている乾燥。木材は乾燥しなかったら使いものならない素材です。戦後、木材は急角度で需要が伸び、外材が入って以降も高度経済成長期でずっと伸びていた。

ところがオイルショックを機に拡大期が終わり、1980年以降は木材需要は低迷期になります。これからは、品質をおろそかにした木材の供給をやっていたらやっていけなくなる。『空気売り』は無論のこと、木材乾燥は絶対必要だと、私は当時からずっと言い続けてきた。しかしいまだにきちんとした乾燥ができたいない。乾燥しないことによって強度に問題が出てくることを自覚している製材業者はほとんどいないと思います。」

 林野庁の統計では、製材工場における乾燥材の生産量は、全体の約10%にすぎないという。しかも何をもって「乾燥材」と呼ぶのか、その定義がない。実際に木材の含水率が何%を指している場合に「乾燥材」と呼ぶかは、製材業者によってまちまちである。15%もあれば、30%で乾燥材としている可能性すらないわけではない。

 「それでも全体の約10%ということは、実質的には国産材の場合ほとんど乾燥材なんてないと考えていいですよ。実態調査をやると、ひどい話がたくさんあります。乾燥というのも技術ですから、人工乾燥機に入れたから、次の日から木材の乾燥ができるというものじゃない。その乾燥機を使いこなすまでに、1、2年はかかる。ところが乾燥機を使いこなすまでいかない業者がいっぱいいる。

結局乾燥材はつくれず、乾燥機はほったらかしで、ラベルだけ乾燥材で出しているところがごろごろ出てくる。もっとひどいのは、含水率を計る機器を、メーカーに目盛りを操作させて、30%までしか乾いてないのを20%に出るようにしてくれという業者がいる。本当に困った業界です。

 こうした体質の業界で、質の悪いものしか出せないなら、結局使ってもらえないのも無理はない、と思えてくる。こうして、1980年代の半ば過ぎには、外材の製品の方が国産材の製品より高くなることがちょくちょく出てくるようになる。丸太においては、ついに1992年には米ツガが杉より高くなり、製材品では1998年には、米ツガの正角が杉の正角より高くなる。

今や名実ともに「外材が安いから国産材が売れない」という理由付けは通用しなくなっている。


製材業の復興が要

しかも現在は、製材品の質が悪いために、本来棲み分けられるべき無垢材と集成材が喧嘩しあっているという。住宅品質確保促進法の影響もあって、国産の無垢材はますます需要が落ちている。これから可能性があるとすれば、「板挽き」が爆発的に伸びるのではないか、と荻氏は言う。

 「内装用の板材としての需要が、すでに首都圏や近畿圏で火がついています。つまりコンクリートの打放しでクロスを貼っただけのオフィスや、一般の普通の住宅でも、下が合板でクロスを貼っただけの洋室に、無垢板を貼る内装が非常に増えてきているんです。洋風化、洋室化のなかで起こってきた板需要というのは、まったく新しい需要なんですよ。これは日本の製材業にとってものすごく心強いことです。」

 板にすれば、柱材などに比べ乾燥は非常に容易になる。集成材が完全乾燥できるのも、元は板だからである。集成材は一度板挽きしたものを8%くらいまで乾燥させ、それを10%から12%くらいまで養生してから接着剤で積層する。そこで板の乾燥材を集成材にしないで、板のまま内装材として使うという発想だ。シックハウス問題や自然派の住宅ブームに乗って、すでにニーズは急激に高まっているそうだ。

 「国産材が努力しなくてはならないのは、ニーズのある製品づくりをきちんとやるということです。林業もいろいろ問題はあるんですが、一番の問題は、丸太を買う木材加工業、製材業です。これらの水準が高く、国際競争力も強かったら、丸太を高く買ってきてきちんと需要にあったところに流せるわけです。林業の方にも金が回ってくる。だからこの川下の製材業の部分の体質、競争力が弱かったら、結局林業は発展しないんです。

 日本の林政は、林業ばかりを見ていて、川下の方の政策がない。林業と林産業というのは、林業が騎手だったら、林産業は馬です。一番元気よくなってもらわなきゃいけない馬の方をないがしろにして、騎手の方ばっかりやっているわけです。だから林業がうまくいかないのは当たり前ですね。それが今の日本の林業の現状だと思います。」


設計者が製材業者を育てる

「林業を考えている側にとっては、建築の方が関心を持つことはたいへんありがたいことです。何せ彼らが一番の需要先ですから。住宅メーカーでは今のところ、全部が全部ではありませんが、全体的な流れとしては木材を省いていこうという方向です。」  設計者が国産材を使うにあたってのアドバイスはあるだろうか。 

 「一般的に国産材を使いなさいと言ってもとっかかりはなかなか難しいんですよ。ですから業者選別をしなければいけません。使う側から供給者に対して、『こういうものをつくってください』『こういうものはだめですよ』と、供給側に対して使う側の要求を完全に通していく。そういうふうにして彼らをニーズの方に顔を向けさせるやり方をしていくべきですね。

 製材業者は製品を市場に持っていって値段を付けてもらうことをあまりにも長いことやってきましたから、自分で価格を付けられない人がたくさんいます。だから設計者の方は、はじめから値段は決まっているだろう、定価みたいなものがあるんだろうという固定観念を持たないことです。逆に設計者の側で、『値段はいくらですか。定価をきちんと付けてください。それがなかったら買えませんよ。』と要求する。それから常識的なことですが、納期をきちんと明示するといった関係を持つことが大事だと思います。

 徹底的にこちらでそういう業者を育てていく。実際に製材工場ときちんと付き合っていく設計者はそうやっています。また設計者と付き合えるような製材工場はこれからも生き残っていけます。

 この10年間、市場がどんどん少なくなって、市場が頼りにならなくなってきた。今までのような商売では儲からない、そういう環境ですから、今製材業は今までの流通の流れを変えることが課題です。製材業者は今まで自分の販売ルートを持っていなかった。私は製材業者が生き残っていく道のひとつとして、自分の直販ルートを持たなければいけないと言っています。

ちょっと賢い製材業者だったら直販ルートが欲しいと思っています。だから設計者たちからの働きかけは非常にしやすい環境です。木材の需要に大きな新しい流れが起きている状況ですから、それが製材業界を大きく変化させるきっかけになると思います。」

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